お金のむこうに人がいる 読了

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田内学 著

 

お金、経済の話は難しくて苦手という方におすすめの本です。

例を出すと、著者である田内さんのご実家はそば屋さんを営んでいて、お店の2階が田内さんの住まいだったそうです。

1階ではお客さんがお金を払ってざるそばを食べている。一方で、田内さんは無料で同じざるそばを食べていました。この理由は、なんとなくはわかるような気がしますが、しっかりと言葉で説明しようとすると難しくないですか。

 

この問題は、お金を中心に考えると難しいが、人を中心に考えると答えがでる。というのが本書の根の部分です。答えが知りたい方はぜひ本書を読んでみてください。

 

本書の特に良いと思った点は、少子化の語り口です。

少子化問題の話になると、必ずと言っていいほど、子どもを「産む」話から議論がスタートする。(中略)不思議ではないだろうか?年金問題を話すときには、「一人の高齢者を●人の現役世代で支えている」という話をよく聞くのに、「一人の子どもを●人の現役世代で支えている」数字を目にすることがほとんどない。一人の女性が産む子どもの人数しか気にしない。

 

子育ての負担が減っているというのは、「親」の話ではなく、「社会」の話だ。社会が子どもを育てなくなってしまった。現代を生きている僕たちは、高齢者の割合だけを見て、負担が大きいと文句を言っていて、子育ての負担が減っていることを忘れている。将来の負担を増やさないためには、子どもを育てる負担を増やして、人口バランスを回復させる必要がある。誤解してはいけないのは、減っているのは社会の負担であって、親の負担ではない。親の負担はむしろ増えている。


男性が少子化を語るとき、”一人3人産めば解決する”というように母体のダメージ全無視の、数字だけの問題として語られることが多いと感じています。

そのたびに、「子育ては男女共に行うことが現代のスタンダードであることは当然だとしても、妊娠、出産による心身のダメージは女性だけにかかるのにそんなに簡単に言われても…」と、(そういった意図の有無に関わらず)嫌な気持ちになることが多く、男性が「産む」という観点で少子化を語っているのは聞きたくない気持ちが強いです。しかし、本書の少子化の語りはそういった印象を受けなかった点が良かったです。

 

一点気になった点は、格差や年金問題についての説明です。格差や年金の問題を、社会全体や世界まで視野を広げれば、みんなで協力して解決すべき問題が見えてくる、というのは頭では理解できるのですが、やはり目の前の問題として解決はしてないと感じてしまうのは私が未熟だからなのかな…と思ってしまいました。

 

人を中心に考えることで、お金の流れや歴史がすんなりと理解できてすっきりとします。おそらくこういった語り口の経済の本は珍しいのではないでしょうか?

著者の田内さんは東大卒、ゴールドマンサックス出身とのことなので、やさしいのは最初だけでどうせ後半にはゴリゴリに難しい説明してくるんでしょ、なんて失礼ながら捻くれた気持ちで読み始めました。

しかし、お金の向こうには人がいる、というタイトルの通り誰が誰を幸せにしているのか?というのを拠点に考えるとわかりやすくなるといったことをわかりやすくやさしく説明してくれています。

「やさしく」と書いていますが、本当に本書は易しくて、優しいんです。経済って本当は人にやさしいものなのかもしれないな〜と思いました。