『夏への扉』読了

f:id:minimumemo:20181109143408j:plain

 

夏への扉

ロバート A ハインライン 著、福島 正実 訳

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

読んだきっかけ

夏くらいには読み終えるつもりで買ったのに、気づいたら秋も終わり冬めいてきてしまった。
手に取ったきっかけは夏頃に、よく行く本屋さんでおすすめされていたから。
夏への扉』なんていう、いかにも文学的なタイトルなのに、ハヤカワ文庫SFから出版されている定番サイエンスフィクションだ。
そのギャップに惹かれて読むことにした。

 

おもしろいところ

タイムトラベル

本作では2度、時間軸のブレが発生する。
1度は、冷凍睡眠(コールドスリープ)、そして2度目は時間旅行だ。

 

冷凍睡眠(コールドスリープ

冷凍睡眠保険は、眠っているあいだに財産が増えるという金融商品(?)で、
財産を金融機関に預け、自分は冷凍睡眠で数年眠り、目覚める頃には財産が増えているという仕組みだ。
実際やるとなると怖すぎるが、フィクションとしてはとてもおもしろいアイディアだ。
主人公は1970年から2000年にかけて、30年の冷凍睡眠をする。

 

時間旅行

“時間旅行”とはタイムトラベルだ。
(しかしこれは、一週間と設定したとしたら一週間前にトリップするか、一週間後にトリップするのかわからない、一か八かの賭けなのだ。)
主人公は、2000年から、30年と設定し過去にトリップする。
もし、未来にトリップした場合2030年、今(2018年)より未来にトリップしてしまうのだ。そう考えたら、この作品ではそう遠い世界の話をしていない感じがして非常にワクワクした。
2030年の世界はどんななんだろう。

時間旅行の際には、質量を合わせるために、トリップさせたい対象を一対に用意する必要がある。
モルモットをトリップさせたければ、2匹のモルモットが必要なのだ。
一週間前に、研究室で見つかった謎のモルモットは、今日トリップさせたモルモットのうちの1匹だった…という下りでは、
一時的にモルモットは3匹居たということ?と頭が混乱した。ここらへんは深く考えるとドツボにはまりそうだ。
どんな作品にも共通して言えることだけど、時間軸が一定でない話は往々にして難しい。
本作に於いては、ここが理解できなくてもストーリーにあまり支障はないので、細かいことは置いておいて読み進めるのをおすすめする。

 

音声認識

冷凍睡眠から覚めた主人公は、2000年頃、音声認識が可能なのではないか?というひらめきを持つ。
音声認識といえば、話しかけると反応する家電とか、音声入力とか、最近私たちの生活にも馴染みが出てきたのではないだろうか。
本作の初出は1956年、その頃に音声認識のアイディアがあったなんてロマンティックでワクワクする。

 

好きなフレーズ

この世には奇跡などないのだし、“時代錯誤”ということは、語義学的には、なんの意味も持っていないのである。
しかし、ぼくは、ピートに劣らず、こんな哲学には縁がない。この世の真理がどうであろうと、ぼくは現在をこよなく愛しているし、ぼくの夏への扉はもう見つかった。
もし僕の息子の時代になってタイムマシンが完成したら、あるいは息子が行きたがるかもしれない。
その場合は、いけないとはいわないが、けっして過去には行くなといおう。過去は非常の場合だけだ。そして未来は、いずれにしろ過去にまさる。誰がなんといおうと、世界は日に日に良くなりまさりつつあるのだ。
人間精神が、その環境に応じて徐々に環境に働きかけ、両手で、器械で、かんで科学と技術で、新しい、よりよい世界を築いてゆくのだ。

歳を重ねるごとに、昔はよかったと言いがちになる中で、未来は現在よりも良くなると認めた上で。“ぼくは現在をこよなく愛している”なんて言い切れる大人はどれだけいるだろうか。未来と、次の世代に敬意を払うことができる人は、きっと時代に追いつき続けると思う。自分もそうありたい。

 

ドアというドアを試せば、必ずそのひとつは夏に通じるという確認を、棄てようとはしないのだ。

サイエンスとロマンスが同居した、甘美な科学的哲学に溢れていて素敵だ。

 

まとめ

純粋にストーリーがおもしろくて続きが気になり、そこそこボリュームがあるが寝ずに一気に読んでしまった。
翻訳は自然かつ、作品の雰囲気を壊さないセンスとロマンに溢れていて良かった。
本当におもしろかったので、まだ余韻を引きずってしまっている。

次は何を読んだらいいのかわからなくなってしまった。『夏への扉』と同じくらい、おもしろくて夢中になれる作品があったらぜひ教えてほしい。

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)