『夏子の冒険』読了
『夏子の冒険』 三島由紀夫著
夏に買って読んだが書くのが遅くなってしまった。
この『夏子の冒険』は、夏に二子玉川の蔦谷家電でかなりおすすめされていた。
角川文庫のかまわぬシリーズは可愛いのでつい揃えたくなってしまう。
三島由紀夫というと、ご本人の生涯からか怖いイメージがあったので教科書以外で自発的に読むことはなかった。しかし、本作は文章がとても読みやすく、ストーリーもさわやかで夢中になってすぐに読み終えてしまった。
しかし、ただ軽いだけではなく一文一文が綺麗な日本語で描かれた、重みのある文章だった。読書の楽しさを噛みしめるのによい作品だ。
以下、好きな箇所について記載する。
どの男をも半ば軽蔑し、半ば尊敬し、半ば愛し、半ば嫌っていた。
この文章を選んだかというと、まず語呂がいい。声に出して読みたくなる文章だ。
そして、この説明によって、この人は男性に対し尊敬して接するが、一線を越えての介入を一切許さないということが端的に説明できている。
次に、この文章を書いているのが男性であるという点。私は、男性作家の作品に登場する女性キャラクターは、その作家の理想の女性像だと思っている。三島由紀夫は気高い女性が好きだったのだろうか。
「今日はね、あたくしが浮世にいる最後の日なの」
「浮世は素晴らしい天気だな」
彼は空を仰ぎ、大きなくしゃみをした。
夏子が毅の下宿を尋ねた後のやりとりの一部。
茹だるような暑い夏の午後と、儚さとほんの少しの期待みたいなものが入り混じった“生”を感じるやりとりでいいなと思ったので選んだ。
“今日が浮世にいる最後の日なの”なんて日常で使う機会はないけれど、素敵なやり取りだ。
本作の結論はというと、まさかの展開なのだが、「でもこういうことってあるよね…」といった感じだ。
バスケ部の先輩に恋をしていて、先輩が部活を引退して「さて、これからたくさんデートができるぞ」と思っていたら「あれ?部活していない先輩、なんだかあんまりかっこよくないぞ?」みたいな感じだと思う。部活ありきの先輩、みたいな。
三島由紀夫の作品を語る例としてふさわしくないような気もするが、実際乙女心なんてそんなものだと思う。
良くない点もあり、夏子の家族が出てくるのだが、私はこの人たちがどうにも好きになれなかった。彼女たちの登場シーンで何度か心が折れそうになった。
しかし、それだけ女性の良いところも悪いところも上手く描いているということ。
夏子は本物のお嬢様で、途中に登場する不二子もとても魅力的。
女性がかっこいい作品は、読んでいて背筋が伸びる。
余談だが、『夏子の冒険』を読んでいる間は、ずっと松田聖子氏の『レモネードの夏』
を聴いていた。夏子のイメージに合っていると思う。