『鴨川食堂』読了
柏井壽/『鴨川食堂』
読みやすさ★★★★★
ほっこり★★★★★
おすすめ★★★★★
京都を舞台にした作品が好きです。
この作品は京都にひっそりとある食堂が舞台。
思い出の「味」、捜します。という料理の探偵さんのお話。
短編が6つ掲載されていて、基本的な流れは同じ。でも飽きることなく読めてしまうのがこの作品のすごいところ。
一番好きな話は、第五話のナポリタン。
19歳の女の子が幼い頃に祖父と旅行をした際に食べたナポリタンを捜してほしいという。
理由は認知症になってしまったお祖父さんに、もう一度そのナポリタンを食べせてあげたいから。
背景からして、今の私と非常に似ていて惹きこまれずにはいられない。
「黄色いナポリタン」だというそのナポリタンは、名古屋のナポリタンで
鉄板に溶き卵を敷いた上にナポリタンが乗っているという。食べてみたい…。
その女の子が、鴨川食堂で食事をしている場面で突然涙を流す。
そこで言った言葉
「あんまり美味しくて。ごめんなさい。美味しいものを食べるといつも泣けてきちゃうんです。」
すごくよくわかる。
おいしいもの、心のこもったものを食べると涙が出そうになる。
これはおいしいものを食べた時に限った話ではなくて、
何かに感動したとき、琴線に触れたときに涙が出てしまう。
私も何かとすぐに感動して泣いてしまう。それがすごく嫌だった時もあったけど、捉え方を変えると
感受性が豊かということだと思うから、この感性を大切にしよう。なんて開き直ることができた。
けど、やっぱり理解しがたい場で泣きたくなるのは考えものである。
この女の子にもそんな葛藤があったりするのかな。なんて考えたり。
そして、私が最も好きな場面
依頼主の女の子と、鴨川食堂の流さんのやりとり
「祖父と食べた料理はたくさんあるのに、わたしは何故あのスパゲティが気になっていたんでしょう」
(中略)
「五歳にならはって、お祖父さんがあなたを一人前の人間として扱わはるようになった、初めての旅やったからやと違いますかな」
(中略)
「きっとそれまでは、一皿の料理を分け合うて食べてはったのが、この旅からはあなたを一人前の人間として見はるようになった。その証が、このスパゲッティやった。自分の前に、自分だけの料理がある。よっぽどそれが嬉しかったんですやろ」
食に関する記憶って、一見おいしかった、おいしくなかっただけかと思いきや
誰と何をどんな風に何を思いながら食べたのか…思い出に深くリンクする。
生きていると嬉しいことも悲しいこともたくさんあるけど、その感情に纏わる食の記憶は優しく包み込んでくれる。
おいしいものを食べると涙が出る、というのはそういうところに由来するのかな。
そして毎回々々の食事を大切にしたいと改めて考えるきっかけになった。
お腹の底から幸せな気持ちになれる何度も読み返したくなる作品。