『坊っちゃん』読了

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坊っちゃん 夏目漱石

坊っちゃん (新潮文庫)

坊っちゃん (新潮文庫)

 

 

読んだきっかけ

何年も前に自分で買って実家の本棚にあったのを見つけた。
2009年に新潮文庫から出版された赤い表紙のデザインがかっこよくて買ったんだと思う。デザインがおしゃれな文庫本はつい欲しくなってしまう。既に持っている作品でも、表紙がおしゃれになるとつい欲しくなってしまう。

 

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おもしろいところ

作品そのものの魅力

まず、『坊っちゃん』のおもしろさを語るには、夏目漱石のことを知る必要があると思うので簡単に紹介する。
夏目漱石は、今の東京大学でおなじみの帝国大学の英文科卒業、その後国から命じられてイギリスに留学する。そして帰国後、帝国大学の英語教師になったエリートだ。

一方で、本作『坊っちゃん』の主人公は、単純明快で己の感情に正直だ。作中の

人間は好き嫌いで働くものだ。論法で働くものじゃない。

坊っちゃんの価値観の全てを表しているように、坊っちゃんは計算高さなどとは真反対の人間だ。

エリートな夏目漱石が、計算高さとは真逆の『坊っちゃん』を書いたというギャップ自体が、『坊っちゃん』の魅力なのではないかと思う。

 

キャラクターの魅力

夏目漱石がイギリスで見た近代は、彼が思い描いていたものとは違うものだったようだ。

赤シャツの鼻持ちならないインテリっぷりや外国かぶれなところや、野だの権力者に媚びへつらうところは、夏目漱石がイギリス留学中に感じた、近代への不快感や嫌悪感が抽象化されたもののように見える。

一方で、清は、夏目漱石がこうありたいと思うイノセントな理想像の原風景の抽象なのだろう。

最後に坊っちゃん山嵐と共に、赤シャツや野だに反撃するシーンや、辞表を提出して島を去るシーンは、夏目漱石がこうありたいと思うイノセントな理想像と、近代化へのアンチテーゼのように見えた。

しかし、坊っちゃんがどんな形で島を離れようと、赤シャツは相変わらず教頭であり続けるだろうし、中学校は変わらず続いていくのだろう。一個人の小さな力が、権力や大きな力の前では意味をなさないことが暗に感じられて切ない。

 

スピード感

基本的には『坊っちゃん』は、全文に渡り赴任先の地と、その中学校に対する愚痴が紡がれている。読んでいて少々辟易しながらも、それでも読む手を止められないのは、文章の歯切れの良さとスピード感が心地よいからだ。

坊っちゃん』は明治39年3月17日から23日にかけての一週間のあいだで書かれた作品だそうだ。読む側もそのスピード感に乗ってすらすらと読める不思議な疾走感こそが、『坊っちゃん』が長く読み継がれている理由かもしれない。

 

まとめ

エリートな夏目漱石だからこそ見えた、近代化のインテリジェンスとイノセントな原風景への渇望の二律背反による作品だ。そういった重いテーマにも関わらず、『坊っちゃん』の文章の歯切れの良さや疾走感の心地よさが長く読み継がれている理由だと思う。

 

坊っちゃん (新潮文庫)

坊っちゃん (新潮文庫)